大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡高等裁判所 昭和35年(ネ)146号 判決 1961年1月27日

控訴人 被告 小久保明士 外二名

訴訟代理人 井上允 外二名

被控訴人 原告 古川タダノ 外四名

訴訟代理人 金田一人

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人等の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人等の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人等の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張、証拠の提出、援用及び認否は被控訴代理人において、本件配当手続においては民事訴訟法第六百二十条第一項但書に規定する同法第五百九十条及び第五百九十一条第二項、第三項の手続がなされているものであると述べ、控訴代理人において右の事実は認めると述べ、証拠として被控訴代理人は甲第三ないし第五号証の各一、二、第六ないし第十四号証を提出し控訴代理人において甲号各証の成立を認めた外、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

理由

熊本地方裁判所は訴外樋田全希(債務者)の訴外熊本県矢部町(第三債務者)に対する同町建築請負代金債権金一、一五一、一四六円につき

(一)  被控訴人古川タダノ、同古川克人両名の前主古川松国の訴外樋田全希に対する債権金一、一六三、四〇〇円のため熊本地方裁判所昭和三二年(ヨ)第九八号債権仮差押命令を発し右命令は昭和三二年七月十日第三債務者矢部町に送達され、

(二)  被控訴人大川賢一の訴外樋田に対する債権金一〇四、八二九円のため昭和三二年七月二五日同庁昭和三二年(ル)第一七〇号債権差押及び転付命令を発し、右命令は同年七月二六日前記第三債務者に送達され、

(三)  被控訴人林常好の訴外樋田に対する債権金一七三、一一七円のため昭和三二年七月二六日同庁昭和三二年(ル)第一七一号債権差押及び転付命令を発し、右命令は同日前記第三債務者に送達され、

(四)  被控訴人福田繁治の訴外樋田に対する債権金六五〇、〇〇〇円のため昭和三二年七月一五日同庁昭和三二年(ル)第一六三号債権差押及び転付命令を発し、右命令は同日前記第三債務者に送達された外、

(五)  訴外熊本県信用保証協会松下光義、宮川年久の訴外樋田に対する各債権についてもそれぞれ債権差押及び転付命令を発し、昭和三二年八月一〇日までに第三債務者矢部町に送達されたので、矢部町は昭和三二年八月二七日前記債務金全額一、一五一、一四六円を民事訴訟法第六二一条第一項により熊本地方法務局矢部出張所に供託し、右供託は同出張所昭和三二年金第四号を以て受理されたので、同町は同月三〇日熊本地方裁判所に右供託事情届をなしたこと、右事情届後、控訴人等は訴外樋田に対し別紙配当表に記載のような各債権ありとして、いずれも執行力ある正本によらないで、同法第六二〇条第一項但書の規定に従い、控訴人合資会社品川木材工業所は昭和三二年一〇月七日控訴人小久保明士は同年一二月一九日控訴人坂本袈市は同月二八日それぞれ配当要求をなしたこと、及び熊本地方裁判所が昭和三二年一月一七日午前九時の配当期日において別紙配当表により右事情届後配当要求をなした控訴人等に対しても配当を実施すべき旨を告げたことはいずれも当事者間に争ない。

而して控訴人合資会社品川木材工業所、同坂本袈市が訴外樋田全希に対し別紙配当表記載のような各債権を有することは当事者間に争なく、又控訴人小久保明士が同訴外人に対し同配当表記載のような債権を有することは原審における控訴本人小久保明士の供述及び同供述によりその成立を認められる乙第一ないし第三号証を綜合してこれを認めることができるので、本件の争点は専ら前記事情届後の配当要求の適否にかかつているのである。

ところで、民事訴訟法第六二〇条第一項によると、執行力ある正本を有する債権者及び民法に従い配当要求をなし得べき債権者は、差押債権者が取立をなしその旨を執行裁判所に届出づるまで又は執行吏が売得金を領収するまで配当要求をなし得るから、第三債務者が同法第六二一条の規定により債務額を供託したに止まるときは、差押債権者は取立をなしたとなすことができないから、差押債権者が供託金を受領しない間は配当要求をなし得るとの見解がある。(大審院昭和二〇年一月一八日決定民集二四巻一号一頁)

配当要求をなすことのできる時期は各種財産に対する執行手続について、それぞれ法定されているが(民訴法五九二条、六二〇条一項、六四六条二項)要するに差押財産の換価手続が終了し、配当すべき金銭が判明した時までということができよう。金銭債権にあつては、差押債権者が第三債務者から取立命令によつて取立てれば、それで金銭に変つたことになるので、取立届出の時を以て配当加入の限度としているのである。しかしこれは通常の場合を前提としているのであつて、第三債務者としては差押債権者の取立を待たなくても、本件のように重複差押があれば、自ら債務額を配当にあづかるすべての債権者のために供託して事情届を提出し、執行の関係人の地位から脱退することができるのである。(六二一条)これによつて第三債務者が供託すれば供託金の上に金銭差押の効力は残るけれども債権差押の手続は終了し、執行裁判所は直ちに配当手続に着手するとしても何等の支障を来さないから、その後の配当要求は許すべきではないと解すべきである。

けだし、本件のように債権差押が競合して差押債権額が債務額を超過したため第三債務者が債務額を供託している場合にも差押債権者の一人は右供託金を取立てその旨を執行裁判所に届出でた後に配当手続に移るとの解釈は配当を遅延させ配当金の交付の点から見ても不確実になるばかりでなく、第三債務者に権利として供託をすることを認めた第六二一条の規定との関係上、差押債権者の一人がかような場合取立をなしうる余地があるかどうかについても疑問があるから実務上は本件の場合執行裁判所が採つているように、配当手続を終了するまでは無制限に配当加入を許すという法の予想しない取扱いを是認せざるを得ないであろう。

そこで第三債務者が民訴法第六二一条第一項により債務額を供託してその旨の事情届が提出されたときは、差押債権者から差押債権を取立てた旨の届出があつたのと同じであると解するのが合理的である。同法第六二七条で裁判所は事情届が提出されたときは七日の期間内に各債権者に債権その他の計算書の提出の催告をなすべく規定し、同法第六二八条に前条の期間満了後裁判所に配当表の作成を命じているのも、右のような解釈を前提としているものと解せられる。極端な債権者平等主義を採用しているわが強制執行手続において、配当要求の時期について法の明文に規定しない恣意的な解釈は許されないとの見解も存するが、金銭債権については差押命令、転付命令、取立命令等各種の手続が並存しているのであつて、債権差押の競合の場合に限つて配当手続の最終段階まで債権者平等主義を徹底すべしとの見解もその根拠に乏しいものである。

これを要するに、第三債務者が民訴法第六二一条第一項により債務額を供託してその旨の事情届が提出されたときは同法第六二〇条第一項に規定する差押債権者から差押債権を取立てた旨の届出があつたのと同じで、その後の配当要求は許されないものと解するからこれと見解を同じくして、控訴人等の前記事情届後の配当要求を不適法として却下し、別紙配当表中控訴人等三名に対する部分を取消し右取消にかかる配当金額を他の債権者各自に按分して被控訴人等に対する配当額を更正した原判決は正当で、本件控訴は理由がないから棄却し、控訴費用の負担につき民事訴訟法第八九条第九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 林善助 裁判官 丹生義孝 裁判官 岩崎光次)

(別紙)

配当表

第三債務者より供託 一、金 一、一五一、一四六円也

執行費用 一、金 一六、五二四円也

配当金 一、金 一、一三四、六二二円也

表<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例